1999年発売の「ポケットモンスター金・銀」では、イワテツタウンとコガネシティをつなぐ「つぐみの森」に小さな祠がひっそりと置かれていました。話しかけても何も起きず、ただの背景オブジェクトの一つでしかありませんでした。
ところが開発チームのアートディレクターは、後年のインタビューでこの祠を置いた目的を誰も覚えていないと明かしています。つまりこの祠は、何かの謎や仕掛けを意図して配置されたものではなく、マップに雰囲気を出すための単なる背景として、特に意味もなく置かれただけのものでした。
ミュウの伝説が生んだ噂
「ポケモン赤・緑」では、幻のポケモン・ミュウが開発者がプログラムの隙間に遊び心で仕込んだ存在で、本来プレイヤーが見つけられるものではありませんでした。しかしバグによってその存在が発覚し、ある町のトラックの下に隠れているという噂が当時の子供たちの間で広まった経緯があります。
この前作の流れがあったため、金銀が発売されるとプレイヤーたちはすぐに何もない祠に注目し、「ここに何かヒントがあるはずだ」と考えるようになりました。
虹色の羽と銀色の羽の噂
隠し要素が豊富なポケモンシリーズにおいて、この祠は格好の憶測の対象になりました。最も広まった噂は、伝説のポケモン・ホウオウに関係する虹色の羽と、伝説のポケモン・ルギアに関係する銀色の羽の両方を持って祠を訪れると、幻のポケモン・セレビィが出現するというものでした。
しかし実際に試しても何も起こらず、プレイヤーたちは別のアイテム組み合わせや特定レベル、満月の夜限定など、根拠のない仮説を次々と生み出しながら試行錯誤を続けました。海外でも同様に、決まった手順やNPC全員との会話など、出典不明の方法が口コミで広まっていきました。
噂を現実にした「GSボールイベント」
開発チームはこの世界規模に広まった噂を単なるデマとして無視せず、別バージョン「ポケモン クリスタルバージョン」の企画の中で、噂を本当のイベントとして実装する決断をしました。
2000年12月発売のクリスタルバージョンには「GSボールイベント」が搭載されました。GSボールは金銀を象徴する特別なアイテムで、これをめの森の祠に捧げるとレベル30のセレビィが出現する仕組みです。このアイテムはアニメ版にも登場し、主人公サトシが誰にも開けられない謎のボールを持って旅をするストーリーラインにも組み込まれました。
参加できたのはごく一部だけ
このイベントには「モバイルシステムGB」という専用オンラインサービスが必要でした。プレイヤーは指定期間中にニュースデータをダウンロードし、ゲーム内のクイズに10問正解してGSボールを獲得、さらにそれを職人に預けて24時間待つという手順を踏む必要がありました。
しかし大きな問題が2つありました。専用アダプターが5800円と高価で携帯電話の通信料も必要だったため、当時子供が個人で携帯電話を持つこと自体が稀であり、参加できたのはごく一部のプレイヤーに限られました。さらにこのサービスは日本国内限定で、海外ではそもそも利用できませんでした。海外版クリスタルのデータを解析すると、イベントのプログラムやテキストは完全に実装済みであったにもかかわらず、遊ぶ手段が一切存在しないという状況でした。唯一の回避策はセレビィ卵バグという非公式の裏技でしたが、正規の方法ではありませんでした。
17年後の回収
イベントから17年が経過し多くのプレイヤーがこの祠の存在を忘れかけていた2018年、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールでポケモン クリスタルバージョンが配信されました。
この復刻版には大きな変更が加えられており、モバイルシステムGBなしでGSボールイベントを遊べるようになっていました。条件はポケモンリーグで四天王とチャンピオンを倒し殿堂入りを果たすことのみで、通常のクリア要素だけでGSボールが入手でき、祠でセレビィに出会えるようになったのです。祠のグラフィックは17年間変わらないまま、今度こそ本当にセレビィが姿を現しました。
唯一の入手方法
このイベントは単に海外プレイヤーが初めて体験できる機会というだけではありませんでした。セレビィを「もらう」のではなく自分の手で捕獲できるたった一つの方法であり、色違いのセレビィを厳選して最新作に転送できる、現在に至るまで唯一の手段でもあります。
開発チームが意図を覚えていないほど何気なく置かれた祠が、プレイヤーたちの想像と噂を経て、17年の時を超えて公式の設定として実現した出来事でした。
ビデモス 











